【ハノイ空間探訪】同じ建築家が描いた対極の美学。アジアの最前線を走る2つの名作バー
こんにちは!アーキ・コヤマ一級建築士事務所の小山です。
先日のハノイ視察の夜、信じられないほど素晴らしい2つの空間に出会いました。
一方は、古い古書や恐竜の骨格標本が並ぶ濃密な「博物館」の世界。
もう一方は、2026年の「Asia’s 50 Best Bars」でアジア34位に輝き、「Best Bar in Vietnam」を受賞した、極限まで引き算された「余白」の世界。
実はこの2つのバー、同じ一人の新進気鋭の建築家が空間デザインに関わっています。同じマインドから生まれながら、空間のつくり方が完全に、そして美しく対極に位置する2軒の空間美学を、一級建築士の視点から紐解きます。

🏛️ 1軒目:時空を超えるプライベートミュージアム『The Haflington』
まず訪れたのは、古い私設博物館をコンセプトにしたバー『The Haflington』です。
一歩足を踏み入れた瞬間、そこに広がっていたのは単なる「古いインテリアの店」ではなく、緻密に計算されたノスタルジーの世界。化石や古い古書、さらには恐竜の骨格標本までが並ぶその空間は、まさに旅の途中で思いがけず見つけた「タイムマシン」そのものでした。

建築士としてこの空間を観察すると、そこには驚くべき「レイヤー(重なり)」の技術が隠されていました。
- 空間をダイナミックに横断する、巨大な恐竜の骨格標本
- その骨格の下に、壁一面の酒瓶を「建築の構造体」のように組み込んだバックバー
- 重厚な木のフレームと暖色の間接照明が作り出す、吸い込まれるような深い奥行き
- 骨格標本に優しく絡みつく、生き生きとした植物たち
ここは単にアンティークを展示しているのではなく、「骨格」「古いもの」「植物」「酒瓶」という異なる要素を幾重にも重ね合わせることで、圧倒的な世界観(展示空間)をつくり出しています。さらに上部はガラス屋根になっており、ハノイの夜空や外の気配がかすかに残ることで、閉塞感のない不思議な調和を生み出していました。
デザインの力によって、人の時間感覚をここまで心地よく揺さぶることができるのだと、深い感動を覚えた夜でした。

📍 The Haflington
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🌿 2軒目:光と素材が織りなす「14番目の工房」『Workshop14』
ハノイの西湖(タイホー)エリアの静かな路地に、2026年の「Asia’s 50 Best Bars」でアジア34位に輝き、「Best Bar in Vietnam」と「Best New Opening」を同時受賞した、いまアジアで最も注目を集めるバーがあります。その名は、『Workshop14』。
ここはかつて建築家のスタジオだった場所をリノベーションし、西湖周辺の伝統的な工芸村を意識した「14番目の工房」という明確なコンセプトの元、空間と飲み物の両方が完璧に調和した、一つの「作品」のような店です。

店内に入った瞬間、その無駄のない空間構成と緻密なディテールに目を見張りました。
- 木で包まれた、小さな建築のようなカウンター
- 天井・壁・家具が連続し、部屋の形そのものが美しい彫刻のようにデザインされている空間
- 単なる商品陳列ではなく、建築の「奥行き」をつくり出すバックバーの照明計画
素材をかなり限定しているため、カウンターに酒瓶やグラスが置かれても空間が決してうるさくならず、むしろそれらが主役として引き立つように計算されています。カウンター上部の天井が少し低く抑えられていることで、座ったときに奥の空間へ自然と視線が抜ける、心地よい視線のコントロール(空間のレイヤリング)が効いていました。

さらに素晴らしいのが、自然との付き合い方です。木のシンプルな内装をベースに、効果的に配置された「トップライト(天窓)」から柔らかな光が落ち、素材のテクスチャを優しく浮かび上がらせています。ベランダや庭といった屋外の気配と、屋内のカウンタースペースがゆるやかに繋がっており、ハノイの心地よい風を感じながら、極上のリラックス感を味わうことができます。

ベトナムの伝統的な食材を、現代的な技法(ラボでの精密なR&D)によってクリアで複雑なカクテルへと昇華させるそのアプローチは、まさにこのバーのコンセプトである「工房(Workshop)」そのものでした。
📍 Workshop14
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🎨 総括:同じ建築家が描いた、対極の美学
同じ一人の建築家のマインドから生まれながら、この2つのバーは「空間のつくり方」が完全に、美しく対極に位置しています。
| 比較項目 | 🏛️ The Haflington | 🌿 Workshop14 |
|---|---|---|
| デザインの手法 | 「足し算」の美学(レイヤーの構築) | 「引き算」の美学(余白の構築) |
| 空間の主役 | 骨格、古書、植物などの展示物 | 空間そのものの形、光、素材感 |
| 視線の変化 | 巨大な骨格が空間を横断し、視線を集める | カウンター天井を下げ、奥へ視線を抜く |
| 空間の印象 | 私設博物館として、ロマンチックで濃密 | 14番目の工房として、ミニマルで静か |
The Haflingtonは、魅力的なオブジェクトを重ね合わせることで、濃密な「世界観」を構築するアプローチ。
一方、Workshop14は、木、光、形、素材を極限まで限定し、美しい「余白そのもの」を体験させるアプローチ。
同じ「ハノイのバー」という用途でありながら、デザインのアプローチによってこれほどまでに全く違う感動を生み出せる。建築という仕事の可能性の広さと面白さを、ハノイの夜風の中で改めて深く噛み締める素晴らしい視察となりました。
今後も空間観察を続けて、皆様に楽しい話題の空間をお届けしていきたいと思います。
