3大陸を繋ぐDNA。西洋美術館、インド、アルゼンチンの世界遺産に隠された「類似性」と「光の系譜」

こんにちは、アーキ・コヤマ一級建築士事務所の小山です。

前回のブログでは、国立西洋美術館が構成資産の一つとして、世界11カ国・計17の建築群とともに世界遺産へ一括登録された経緯についてお届けしました。

今回は、その構成資産の中でも特に地理的・文化的な距離がある3つの国、「日本(国立西洋美術館)」「インド(チャンディーガルのキャピトル群)」「アルゼンチン(クルチェット邸)」の設計思想における類似性と繋がりについて解説します。

美術館、政府中枢、個人住宅と、用途もスケールも異なる3つの建築ですが、そこにはル・コルビュジエが提唱した共通の設計理念が厳格に埋め込まれています。


3つの建築を貫く「共通の設計DNA」

ル・コルビュジエは、自身が提唱した近代建築のルール(近代建築の五原則など)が、地域の気候や文化を超えて普遍的に適用可能であることを証明しようとしました。事実、これら3つの建築には、用途を超えて共通する設計の骨組みが見られます。

  • ピロティによる空間の開放
    建物を地面から持ち上げ、1階を壁のない柱だけの空間にする「ピロティ」。西洋美術館では公園からホールへ人々を誘うアプローチとして、アルゼンチンのクルチェット邸では狭小地の中に中庭を作る手法として、同様の機能を果たしています。
  • 基準寸法「モデュロール」による均整
    天井高、柱の間隔、窓の比率にいたるまで、人体の寸法から算出された独自の黄金比(モデュロール)で一貫して配置されています。西洋美術館のピロティの柱が刻む「4.44メートル」の間隔も、このルールに準拠しています。
  • 建築的プロムナード(散歩道)
    空間を平面的に区切るのではなく、緩やかな「スロープ(斜路)」を歩かせることで、移動に伴う光や景色の変化を体感させる動線計画が、3つすべての建築に共通して組み込まれています。

2022年の大規模改修を経て、西洋美術館の前庭は竣工当時の「遮るもののない広場」の姿へと復元されました。これにより、インドやアルゼンチンの世界遺産と同じ「都市に開かれたモダニズムのプロポーション」を、本来の距離から俯瞰して体感できるようになっています。


日本とインドを結ぶ、外光の取り入れ方の類似性

また、設計の視点において見落とせないのが、「日本とインドを結ぶ、外光の取り入れ方の類似性」です。

西洋美術館の2階常設展示室には、高い天井の側面(高窓)から自然光を取り込み、それを反射させて室内を均一に照らす「照明ギャラリー」という独自のシステムがあります。

実は、窓から直接光を入れるのではなく、一度コンクリートの構造物に光をバウンドさせて間接照明に変えるというこの手法は、コルビュジエが先立って着手していたインド(アーメダバードなど)の美術館計画において検証を重ねていたデザインの系譜にあります。

西欧の均一な人工照明の美術館(ホワイトキューブ)に対し、アジアの移ろう自然光をいかに展示空間に取り込むか。インドでの検証を経て、上野の地で一つの完成形を見たという点で、日本とインドの世界遺産は設計の根底で強く繋がっています。


次回(第3回)は、一見すると同じように見えるこれらの設計図が、日本ではなぜ「寸法白紙」の状態で届いたのか。アルゼンチンの事例と比較しながら、「外来文化を地域に適応させる、日本文化の特質」について深掘りします。どうぞお楽しみに

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