ヨーゼフ・ホフマン、上野リチの思想に触れて|ウィーンから京都へ紡がれたモダニズム
こんにちは。アーキ・コヤマ一級建築士事務所の小山です。
前回のブログに続き、東京都庭園美術館で開催中の「ルーシー・リー展」から得た、もう一つの深い繋がりの物語についてお話しさせていただきます。

[写真1:朝香宮邸の階段]
(アール・デコ様式の美しい旧朝香宮邸のインテリア。いつ訪れても洗練された空間の力に圧倒されます)
今回の展覧会では、ルーシー・リーの初期のキャリアであるウィーン時代にスポットを当て、当時のウィーンの工芸運動(ウィーン工房)の巨匠、ヨーゼフ・ホフマンと彼女との繋がりが紹介されていました。
無駄を削ぎ落とした幾何学的でモダンな造形。ルーシー・リーの器に見られる建築的なシルエットの原点がここにあることを実感させられますが、会場にはその頃のウィーン工房の華やかな雰囲気を伝える女性デザイナー、ユッタ・ジカの美しいティーセットが展示されていました。

[写真2:ユッタ・ジカのティー・コーヒーセット、1901-1902、国立工芸館]
(ウィーン工房の先駆者、ユッタ・ジカによる華やかなティーセット。洗練されたモダンな造形と色彩に目を奪われます)
このウィーン工房のエネルギーを受け継ぎ、ホフマンの愛弟子として頭角を現したのが、もう一人の重要な女性デザイナー、上野リチ(リチ・ウエノ=リックス)です。
会場にはホフマンが手がけたガラス器に、上野リチが絵付け(装飾)を施した見事なコラボレーション作品が展示されていました。建築家として全体の構造や直線を重んじるホフマンの造形と、そこに自由で生命力あふれる曲線を添えるリチの意匠。この師弟の共作は、まさにモダニズムにおける「形と装飾の美しい調和」を体現していました。
私にとって、上野リチの作品にこの場所で再会できたことは、特別な喜びでした。
2021年から2022年にかけて京都国立近代美術館から東京の三菱一号館美術館へと巡回した、彼女の大規模な回顧展に足を運んでいたからです。

[写真3:京都国立近代美術館の上野伊三郎とリチコレクション図録 (表紙)2021年]
(キャプション:大切に保管している京都国立近代美術館の展覧会図録。上野リチの世界観が鮮やかに凝縮された一冊です)
実はそれだけでなく、私自身、彼女に深くゆかりのあるデザイン専門学校の夏期講習に参加した経験があることも、喜びをいっそう深いものにしてくれました。

[写真4:上野リチ・リックス(装飾)ヨーゼフ・ホフマン(形)光学吹きガラス、エナメル彩、形1929、装飾1929]
(キャプション:展示されていた上野リチ・リックスのグラス。彼女らしい伸びやかさと、日常を彩る美しい意匠が施されています)
あの頃は地方在住のため、両親にお願いをして、やっとの思いで参加させてもらった特別な夏期講習でした。
当時のデザイン教育はガチガチの厳しい指導が多かった中、そのスクールは、本人が「美しい」と思う感性や「面白い形」など、学ぶ人の視点を何よりも大事にしてくれる場所でした。こんなにも伸びやかに、楽しく指導してもらったことは、私にとって本当に数少ない大切な経験となっています。
当時は決して有名な学校ではなく、経営も決して楽ではなかったはずです。しかし、上野リチが建築家である夫・上野伊三郎とともに京都に創設した「インターナショナルデザイン研究所」の、自由で豊かな教育マインドを確かに受け継いでいたのだと、時を経て改めて深く気づかされました。
上野リチの作品、あるいはウィーン工房のデザイナーたちに共通する「伸びやかさ」と「楽しさ」。今も残る彼女たちの作品群を見つめていると、世界が暗い時代へと入りつつあったあの時代において、それを撥ね退けるような明るさと強さ、そして私たちが憧れるヨーロッパの華やかなエッセンスが満ち溢れていることに気づきます。
決して時代に屈せず、人間の心を豊かに彩り続けること。
それこそが「デザインの力」なのだと、彼女たちの意匠は今も私たちに教えてくれている気がします。

[写真5:新館と庭園の写真]
(美しい空間に触れた後、深く思索を巡らせているような彫刻。デザインの歴史の地続きさを実感する時間となりました)
世界を揺るがしたウィーンのモダンデザインの潮流が、国境を越えて京都の地へ息づき、そして巡り巡って、かつて私が熱意を持って飛び込んだあの学び舎の空気へと繋がっていた。デザインの歴史は決して教科書の中だけのものではなく、私自身の原点とも地続きで今に生きているのだと、非常に感慨深いものがあります。
ウィーン工房が目指した「建築から日用品までをトータルで美しくデザインする」という思想、および個人の自由な感性と伸びやかな視点を尊重する姿勢は、私たちが日々の注文住宅やリノベーションにおいて、お客様それぞれの「心地よさ」や「好き」という感性に寄り添い、空間を仕立てていく設計実務のスタンスとも深く重なります。
自分自身のデザインへの熱意と、巨匠たちの確かな息吹を再確認できた素晴らしい時間となりました。
新体制となったアーキ・コヤマ一級建築士事務所でも、この歴史あるデザインの系譜と確かな技術への敬意を胸に、お客様の暮らしに深く寄り添う空間を丁寧に設計してまいります。
